子どもの意見を反映させよう

子どもの世界と権利条約(第1回)  文/渋井哲也(フリーライター)

 「学校の決まりに対する生徒の意見を聞いて」
 「もっと子供の気持ちを理解してほしい」

 私のホ−ムペ−ジに寄せられた高校生の意見です。この2人がどんな状況を考えて答えてくれたのかはわかりません。しかし、少なくとも、大人は子どもの意見を聞き、反映している状況とは考えられません。
 多くの大人たち、特に親は「子どもに良かれ」と思って、子どもに要望したり、強制したりしていることでしょう。そして子どもたちの中には、それに反抗したいのだけれど、親に見捨てられる恐怖から、親の言う通りに行動している「いい子」も多いことでしょうね。

 このような子どもが大人になった時に、今さんの連載で扱っているアダルトチルドレンとして生きるのかもしれません。
 もちろん、家族だけでなく、学校でも地域でも、子どもを非行に走らせるためや、将来の犯罪者を作ろうと思って子どもと接していることはないことでしょう。でも、なせか生き苦しさを感じています。

 私が接している子どもたちは親や教師たちに本音を言っていないことが多いのです。18歳で無職の男の子は一見無気力ですが、ある時、どんなアルバイトが適しているだろうかと悩んでいました。その相談は、いつも行っているフリ−スぺ−スでしていました。
 保健室登校の中3の女の子は、親の意見に左右されやすく、母親がいると、その意見にうなづいてばかり。でも1対1で話すと、「女優になりたい」などいろんな夢を話してくれました。
 長野県では、全国で最後になったテレクラ規制条例の制定の動きがでています。テレクラや伝言ダイヤルなどにまつわる事件が起き、県内でも援助交際や「援助おやじ」をねらった「オヤジ狩り」が問題になったことがあり、県PTA連合会などが陳情していたことが背景にあります。でも、当事者の子どもたちの意見を反映するどころか、聞いてもいません。

 「子どもは『子どもの専門家』です」。

 昨年12月、国連子どもの権利委員会の委員ジュディス・カ−プさん(イスラエル)が、子どもの権利を発展・擁護するNGO・DCI日本支部の招きで来日。この言葉は、その時の講演の言葉です。そして、「子どもの直接的な意見表明は大変貴重です。その子どもの目から新しいアイディアを社会に提供することができるのです。だから、子どもは社会の発展に欠くことの出来ない貴重な社会の一員なのです」と続けました。

 このカ−プさんの視点は昨年6月に出された日本政府への勧告に生かされ、「参加権の行使では、社会のあらゆる側面で、子どもが一般的に困難に直面していること、特に、学校制度において困難に直面している」などの内容に反映されています。

 しかしながら、この勧告も、日本に子どもたちの意見なくてはかなわなかったことでしょう。昨年の5月に行われた日本政府報告書の審査で、子どもの意見を直接国連に届ける取り組みをしていたDCI日本支部子ども21世紀委員会を通じて、高校生3人が意見を述べました。これは150カ国以上もの審査を続けてきたにもかかわらず、世界で初めてのことでもありました。カ−プさんは来日した際、「子どもたちの声なしには、あの勧告の内容にはなりませんでした」と述べていましたし、「彼らが先例を作ってくれたおかげで、その後、タイやネパ−ルの子どもたちも国連に来れました」と評価していました。
 子どもの意見を反映させ、居場所となる場所が家庭、学校、地域で失われていることこそ、現代の子ども問題があると、私は思います。

 人気をはくしたアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主人公シンジのセリフで「僕、ここにいていいの?」という問いかけがありました。それに、無条件で「そのままでいいんだよ」と答えられる人間関係が必要ではないでしょうか?そして、大人は子どもの意見を単に「聞く」のではなく、「反映させる」努力が必要なのです。