自傷癖とコミュニケーション

子育てリストラ宣言:その3  文/今一生(フリーライター)

 僕の仕事は、雑誌や本に文章を執筆するフリーライターですが、その傍ら、95年から東京都内の各所でイヴェントを主催しています。テーマは様々ですが、自殺未遂を告白する人に出くわすことが少なくありません。自殺をテーマにした原稿は、現在では本を1冊かけるくらいの分量に上ってしまいました。
 つい最近も、文芸誌『リトルモア』(99年3月末発売号)に「僕らが自傷する理由 〜父なき時代の若者論〜」という文章を執筆しました。5月中旬に発売される別冊宝島『自殺の本』(仮題)でも自殺未遂者5名をお呼びし、「なぜ自分の体を傷つけたくなったのか」を語っていただきました。
 そこでハッキリわかったのは、自殺未遂を試みたり、自分の体に傷をつける自傷癖の経験の持ち主には、自分がこの世界に生きていく自信が十分に育まれておらず、人に助けを求めることさえ面倒に思えてくるほど、人間関係に不得手であるということです。

 鬱を患っている人、あるいはもっと軽症で気分が落ち込んでいる人に対して、僕らはつい「ガンバレ!」と励ましてしまいがちですが、この「ガンバレ!」に応えられないイライラが、そうしたダウナーな人々の心をさらに沈ませ、自傷に至らせる一因になりかねないとは、なかなか気づきにくいものです。
 実際、今日の親子のコミュニケーションは不安定で、場当たり的なものになっているようです。
 今朝(3月21日)の東京新聞サンデー版に、くもん子ども研究所が97年に全国の小学4年生から高校3年生までを対象に650人を調査したデータが載っています。それによると、「母親からよく言われる」コトのトップは「勉強しなさい」(57.5%)、次いで「家の手伝いをしなさい」(43.7%)、そして「自分のことは自分でしなさい」(43.4%)と続きます。一方、「父親には何も言われない」子どもは約2割強。

 安室奈美恵さんの夫・SAMさんが温大(はると)クンを胸に抱いたポスターで、父親の育児参加を呼びかけられる時代であると痛感するデータだと言えるでしょう。

 ところが、現状では育児を任されている母親の中で「良い母親か自信が持てない」と不安に思う方は、実に66.6%もいるのです(首都圏の幼稚園・保育園児・小学1年生をもつ母親1500人対象/96年ベネッセ教育研究所調査)。
 不安の要因は少なからずあるでしょうが、雑誌や育児書やエラい先生たちに振り回され、「子どものことは子ども自身に答えがある」という当たり前のことを忘れては、コミュニケーションを建て直すことは難しいのではないでしょうか?

 3月上旬、僕はある自治体の要請で主婦向けに講演をさせていただいたのですが、結婚も子育ても経験のない僕には大したことは語れません。そこで、6月に東京・渋谷ユーロスペースで公開予定のドキュメント映画『ファザーレス 〜父なき時代〜』(自傷癖を持つ青年が自身の親たちに自分の孤独の理由を問いただすストーリー)のダイジェスト上映と、30分間の「親テスト」を試みました。次回は、このテストを紹介したいと思います。