「先生、若いねぇ」「まだまだ、甘いよ」

 教師になって4年目の頃から、夏休みにクラス全員の家庭訪問をした。
 生徒にしてみれば迷惑な話だったかもしれないし、また、それは僕が独身だからできたことだと思うが。

 高校の家庭訪問というと、何か生徒が問題を起こした時に家まで行くのが普通だったが、問題がないときにこそ、色々な話ができると思った。
 50ccのスクーターを買った。
 高校となると通学範囲は広くなる。だから家庭訪問は、午前、午後、夜、それぞれ一軒という形をとった。
 大体、一軒の家に1時間から2時間は居座る。時としては深夜まで居座ることもあった。

 ・・・・ローカルな話だが、午前中に富士宮、午後に御殿場、夜は伊東・・・・暇な方は地図を見て下さい(笑)・・・・、なんて事も・・・・

 他愛のない話が多かった。

 午前中の家では、昼飯をご馳走になり、午後は早めの晩飯、夜は酒・・・・。
 時としては、生徒の話などそっちのけで、色々な話になった。恋愛の話、結婚のいきさつ・・・・・。

 とかく、学校と言うところは敷居の高いところで、「学校に行く」というとどうしても身構えてしまう事が多い。
 しかし、この家庭訪問、相手のホームグラウンドに行くわけだから、保護者も結構リラックスしている。まして、子どもが何か悪さをしたわけではないから恐縮する必要もない。
 また、酒が入ったりすると、結構止まらなくなるお父さんもいた。
 そうなると本音が少しずつ出てくる。

  「先生、アンタはまだまだ若いよ」
  「先生は世間知らずだよ」
  「結婚相手を紹介してやろうか?」

 生徒の保護者というより、一人の人間として、色々なことを教えてもらった。
 同時に、「先生」なんて呼ばれるのがとても恥ずかしく思うようになった。

 もう一つこの家庭訪問を通して自分の中で変わったことがあった。
 
 「体調が悪くて、学校休みます」などという電話があったとき、「あぁ、あそこで電話してるんだな」と思い浮かぶようになったのだった。
 当たり前といえば当たり前だが、「寒くないか?」という言葉を口にしていても、「あぁ、あそこで電話しているんだな」と思うようになった。

 
 先日も小学校の家庭訪問があった。
 一つの家庭に10分間ずつの予定で、全部の家をまわってくる。
 大変だろうなと思いつつも、もっと時間をとってじっくり話をしたいと思う。

 「学校」「先生」というのは、親がどう思おうと、子どもにとっては「絶対的な」存在であることには変わりない。
 子どもの成長にとって、「学校」や「先生」が多大な影響を与えるのも、また事実である。

 だから僕は「学校」や「先生」ともっともっと仲良くなりたいと思っているのだが・・・・・。